年が明けると寒さが本格化してきますが、この時期は駅伝と併せてマラソンの季節でもあります。
年始一発目の女子マラソンと言えば、「大阪国際女子マラソン」ですよね。
記録が出やすく、レベルの高い大会としても知られていますが、それに一役買っているのがペースメーカーと呼ばれる選手の存在です。
2022年大会では選手よりペースメーカーが目立って話題になりましたが、意外とこのペースメーカーの役割や意味について知っている方っていないんですよね。
そこで今回はそのペースメーカーに焦点を当てて説明していきたいと思います!
大阪国際女子マラソンのペースメーカーとは?
ペースメーカーとは、文字通り「ペースを作る人」になります。
具体的には大会主催者(大阪国際女子マラソンの場合は日本陸上競技連盟・以下日本陸連)が指定した「1kmや5kmあたり何分何秒のペースで走ること」を決められた選手になります。
ペースメーカーはこの指定されたタイムで走ることが役目になります。
他の選手は、このペースメーカーの後ろについて走ることで、自分で先頭集団を引っ張る必要なく走ることが出来ます。
これはランニングを経験したことのある方なら共感してもらえるかと思うのですが、例えば風が強く吹いている中、自分で決められたペースを作って走るという作業は結構労力を使うものなのです。
そこで、マラソンのレース中に体力を必要以上に使うことなく、好タイムを狙うために、他の選手はペースメーカーの後ろについて走ることで体力を温存できるのです。
マラソンは勝負、順位と併せてタイムも記録されますし、それが求められることもあります。
有力な選手はタイムも速く、それが各マラソン大会から招待選手として呼んでもらえたり、報奨金に繋がることもあるため、タイムを出すことも大事になってくるというわけです。
ペースメーカーと日本のマラソン大会
日本の国内マラソン大会ではいつ頃からペースメーカーが起用されているか、参考までにご紹介しておきます。
日本では、2003年12月開催の福岡国際マラソンで、初めてペースメーカーが起用されました。
実は、それ以前の大会でも存在はしていたものの、公にはされていませんでした。
なぜ公にできなかったのか。それは当時の日本陸連がアマチュアリズムを提唱していたからになります。
現在の日本陸連は、英語表記で「JAAF(Japan Association of Athletics Federation)」となりますが、それは国際陸連が2001年に、「IAAF(International Association of Athletics Federation)」と呼称を変更したことに由来しています。
2002年から日本陸連もこの表記に変わりました。
それ以前は、「国際陸連(International Amateur Athletic Federation)」、「日本陸連(Japan Amateur Athletic Federation)」といったように『アマチュア(Amateur)』の文字が入っていました。
アマチュアである以上、競技で報酬を得るということが認められておらず、ペースメーカーもまた同様でした。
陸上競技の世界では「助力(じょりょく)」という言葉あり、競技者はいかなる手助けも受けてはならないことになっていたのです。
そのため、国内のマラソン大会で先頭を引っ張っている選手がいてもペースメーカーとは言えず、あくまで一人の選手が積極的に先頭集団の前に立って走っているということになっていました。
テレビ中継でもアナウンサーが「今日は〇〇選手が積極的に引っ張っていますね~」といった実況をしており、その選手が30kmで離脱した際も「あ、走るのをやめてしまいました。何かアクシデントでしょうか!?」と、なんとも白々しい実況を繰り返してた時代がありました。
ペースメーカーの賛否
ペースメーカーについては、日本国内では賛否が割れています。
30kmまでは、何の変化もなくただペースメーカーについて走っていけばいいというレースのため、「レースがつまらない」という見方もあります。
ちなみに元日本記録保持者で往年の名選手である中山竹通さんは、「ペースメーカーをつけたからその枠からはみ出してはいけないという、いい子の教科書通りのマラソンが始まってから今のマラソンが始まったと思います。」と仰っています。
オリンピックや世界選手権のマラソンではペースメーカーはいません。
あくまで勝負、いかにして勝つか、というマラソンになり、そこがタイムを狙うためのマラソンとは決定的に違う点になると言えます。
スポンサーリンク
大阪国際女子マラソンのペースメーカーはどこまで伴走するの?
実はペースメーカーがどこまで伴走するかは、主催者の日本陸連の指示により毎回異なります。
大阪国際女子マラソンに限らずよく見かけるのは、30kmまでペースを作って先頭を走り、30km地点に到達するとお役御免となりレースから離脱、リタイヤするというケースです。
しかし、近年の大阪国際女子マラソンでは男子選手によるペースメーカーが用意され、ゴール直前までその役目を務める選手も多くなってきました。
過去には、男子マラソンでも活躍している川内優輝選手や、山の神こと神野大地選手がペースメーカーを務めたことでも話題になりましたね。
なお、ペースメーカーは主催者の指示とは関係なく、ゴールまで走り続けても特に問題はありません。
個人のマラソンの記録として結果も残ります。
指定された距離と時間を走りきることが出来れば、あとはリタイヤするのもゴールまで完走するのも自由になります。
マラソンでペースメーカーを用意して選手のタイムを出す環境をアシストしたのは、1985年のオランダのロッテルダムマラソンが先駆けと言われています。
大会の主催者が、当時若手だったベルギーのヴァンサン・ルソー選手をペースメーカーに起用し、ポルトガルのカルロス・ロペス選手が当時の世界新記録2時間7分12秒で走ることに成功しました。
ちなみにこのルソー選手は、後にマラソン選手としても活躍しており、日本でも1994年の東京国際マラソンに出場して2位という成績を収めています。
スポンサーリンク
大阪国際女子マラソンのペースメーカーに報酬はある?
こうした記録を狙う背景もあり、近年のマラソンでは、大規模な大会のほとんどでペースメーカーが用意されるようになりました。
走っている選手はマラソンの招待費や順位による獲得賞金で生活をしているプロも少なくありません。
その一方で、ペースメーカーはどれくらいの報酬を得ているのか気になるところですが、大阪国際女子マラソンに限らず報酬額は公表されていません。
ペースメーカーはアシスト役とはいっても30kmくらいまでをトップレベルの速さで走ることが求められているため、実力がないと務まらない仕事になります。
なので、それなりに主催者からの報酬は得られていると思われます。
インターネット上では、1回のレースで200~300万円なのではないか、あるいは1kmごとに何万円なのではないか、といったように様々の憶測が流れていますが、これは主催者側とペースメーカーとなる選手、あるいはその選手の所属するチーム間で話し合われることでしょうから、残念ながら不明なのです。
スポンサーリンク
大阪国際女子マラソンのペースメーカーまとめ
マラソンは近年世界記録も短縮されており、大規模な各マラソンの主催者は選手にタイムを出してもらおうと、選手の招待やペースメーカーの準備に必死になっています。
上記でも触れたように、時代の流れの中で生まれたと言えるペースメーカー。
賛否が分かれて様々な意見もありますが、陸上競技の前提がアマチュアではなくなったことから、走ることで生計を立てる、マラソンでも稼げるんだという希望を持った選手も多いことでしょう。
ルソー選手のようにペースメーカーで実績を重ねて自らもマラソン選手として成功を収めるという競技キャリアを描く人は今後も出てくるかもしれませんね。
記録のアシストだけではなく、その後の選手のキャリアを追っていくとまた一つ違った視点でマラソン大会を見ることが出来るかもしれません。